これからの生成AIとの付き合いかた

物語で未来を引き出すという発想

 「ChatGPTに将来のことを聞いても、はぐらかされたような答えしか返ってこない」。そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。実はこれ、ChatGPTが未来の予測を控えるように設計されているためです。予測が外れた場合の影響や誤解を防ぐために、あえて「確かなことは言えません」と答えるようチューニングされているとも言われています。

 ところが最近の研究で、ある“問い方の工夫”をすることで、ChatGPTが驚くほど具体的かつ自然に未来を語り出すことがわかってきました。その工夫とは、「未来を物語の形で描かせる」ことです。

たとえば、「2025年にどんな商品がヒットするのか?」という問いは、小規模事業者にとっても大きな関心事のひとつです。しかし、その問いをそのままChatGPTに投げかけても、慎重な姿勢から明確な答えは得られないかもしれません。そんなときに効果を発揮するのが、物語形式で未来を描かせる方法です。

 たとえば、「2026年の春、商店街の小さなパン屋の店主とアルバイトの大学生が開店準備をしながら話しています。『去年は本当に大変だったけど、ChatGPTに“2024年までのパン業界のトレンドをもとに、2025年はどんな商品がヒットしそうか?”って聞いてみたんだ。そしたら、その商品を試作してみたら、常連さんにも好評で新しい客層にも響いたんだよね』『補助金を活用して冷凍配送を始めたのも追い風になったよね。ネット注文が一気に増えたし』。さて、彼らはどんな一年を振り返っているでしょうか?」というように、物語として未来を描いてもらうといった感じです。

 こうした“物語プロンプト”は、AIの創造性を刺激し、潜在的な知識やパターンを引き出すのに非常に効果的です。実際の研究では、アカデミー賞の受賞者を予測させる実験において、物語形式の方が圧倒的に正答率が高くなる結果が出ています。特にGPT-4では、登場人物が過去を振り返るような形で語るストーリーの中に、正解を自然に盛り込むことができたのです。

 これは、AIが「正しい答えを出そう」とすると萎縮してしまう一方で、「創作していい」と言われると自由にアイデアを展開できることを意味しています。経営においても、未来を描くことは極めて重要な作業です。しかし数字やロジックだけでは見えにくい「兆し」や「可能性」は、物語の形を取ることで浮かび上がることがあります。

 たとえば、新規事業を考えるとき、3年後にその商品を手にしたお客様が何と言っているか、ストーリー仕立てでChatGPTに語らせてみる。あるいは「未来の自社の姿」を社員が語っている場面を描かせてみる。そんな問いかけが、新たなアイデアの種や、見過ごしていた課題を気づかせてくれることもあるでしょう。

 AIは、質問の仕方次第でまったく違う顔を見せてくれます。未来を読み解くのではなく、描かせてみる。その柔らかで創造的なアプローチが、これからの時代の経営に役立つヒントをくれるかもしれません。

《 平林丈晴 / 中小企業診断士 》