「2025年の崖」と直ちに取り組むアクション
国内では、『DX』という言葉に関連して使われた言葉に、「2025年の崖」があります。この言葉は何を示しているでしょうか?
経済産業省内の「デジタル・トランスフォーメーションに向けた研究会」の2018年中間報告「DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」で初めて使われました。(下記URL1を参照)
その報告によると、多くの経営者が将来の成長・競争力強化のために新たなビジネスモデルを創出し柔軟な経営改革を進めたいと考えています。しかし、今日の企業・組織の既存基幹システムは、個別最適化,複雑化,ブラックボックス化され、経営改革のためのデータ活用や部門間連携を阻害している。しかも、このシステムを再構築しようとしても、1990年代以降の外注活用推進のため、社内での対応は難しく、システムの維持管理に終始せざるを得ません。このために次のように指摘しています。
- 経営データが活用しきれず、DXを実現できないため、 市場の変化に対応して、ビジネスモデルを柔軟・迅速に変更することができない。
- 経費が高額化し、IT予算の9割以上がレガシーシステム(既存基幹システム)の維持に消費される。
- 保守運用の担い手不在で、サイバーセキュリティや事故・災害による システムトラブルやデータ滅失等のリスクが高まる。
つまり、「2025年の崖」とは、DXには、上記のような既存基幹システムの改善が求められるが、システムの改善・維持ができるシステム系人材の多くが現役を引退する時期が「2025年」頃で、それまでに基幹システムの変革を完了しなければ、企業のみならず日本の経済損失が莫大になるということを示していました。(DXレポート:26~27ページ)
しかしながら、その後に設置された「デジタル・トランスフォーメーションの加速に向けた研究会」の2020年中間報告「DXレポート2」(下記URL2を参照)では、「2025年の崖」が、DXの解釈をレガシーシステム(既存基幹システム)の刷新という本質的でない解釈を生んだと指摘し、コロナ禍による事業環境の変化へ迅速に適応することが必要になった今日、2025年を待つ猶予はなくなったとしています。(DXレポート2:45~51ページ)
そのため、この「DXレポート2」では、企業の経営・戦略の変革の方向性について、コロナ禍を契機に企業が直ちに取り組むべきものや、DXを進めるための短期的、中長期的な対応について示しています。今回はその中の“直ちに取り組むべきアクション”を次に紹介します。(DXレポート2:17~18ページ)
特に下線・太字は現在採用を検討してみる価値があると筆者が考える事項を示します。
- テレワークシステムによる執務環境のリモートワーク対応
- オンライン会議システムによる社内外とのコミュニケーションのオンライン化
- OCR(Optical Character Reader/Recognition) 製品を用いた紙書類の電子化
- クラウドストレージを用いたペーパレス化
- 営業活動のデジタル化
- 各種SaaS(Software as a Service)を用いた業務のデジタル化
- RPA(Robotic Process Automation)を用いた定型業務の自動化
- オンラインバンキングツールの導入
- 活動量計(人の活動消費カロリーの測定)等を用いた現場作業員の安全・健康管理
- 人流の可視化による安心・安全かつ効率的な労働環境の整備
- パルス調査ツールを用いた従業員の不調・異常の早期発見
(簡易的な質問を繰り返し行う従業員満足度調査の1つ) - 電子商取引プラットフォームによる EC サイトの開設
- チャットボット等による電話応対業務の自動化・オンライン化
(チャットとロボットの組合せで、人工知能を活用した顧客対応ツール)
URL1:2.6.2既存 IT システムの崖(2025 年の崖)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
URL2:4.1.1製品・サービスの導入による事業継続・DX のファーストステップ
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation_kasoku/pdf/20201228_3.pdf
《 坪田 章 / 中小企業診断士 》