「まんぷく」に見る事業性評価

 金融機関による企業への融資は、財務内容や担保などを評価して行われますが、金融庁は数年前から、それだけではなく事業そのものを評価して行う、いわゆる「事業性評価に基づいた融資」を行うことを金融機関に対して促しています。さて、この「事業性評価」とはどういうことでしょうか。

 日清食品の創業者である安藤百福氏とその妻をモデルにしたNHKの朝ドラ「まんぷく」をご覧になっている方は多いと思いますが、まさにあのドラマの中にヒントがあるのです。ドラマの中では、萬平さん(安藤氏のモデル)は、戦後の食糧事情の悪さから栄養失調に陥る人たちが多くそれらの人たちを助けたいという信念から、「ダネイホン」という栄養食品を開発しました。タンパク質をはじめミネラルや各種ビタミンが豊富であり、度重なる工夫で味もそれなりのものとなり商品化に成功したのです。しかし、最初は全く売れませんでした。なぜでしょうか。

当時多くの国民にとって、とにかくお腹いっぱい食べることが重要な事であり、栄養バランスは二の次だったと言えるでしょう。栄養があろうがなかろうがとにかくお腹いっぱい食べることを“夢見ていた”人々にとって、値段ばかり高くてとても主食にはならない(パンなどに塗って食べるものでした)ものは、当時の多くの人たちにとってお金を出して買うものではなかったのです。それが、病院食としての認可を取ることによって、栄養を摂取できて消化も良いという評判が広まり病院からの注文が殺到し、またたく間に人気商品となったのです。

さてここで考えたいのは、「ダネイホン」のように「優れたモノ」「技術的に優れたモノ」「高品質なモノ」を開発しただけでは「事業性がある」とは言えないという事です。それを買ってくれる人が多くいる(たくさん売れる)ことによって初めて「事業性がある」と評価されるのです。「ダネイホン」はお腹いっぱい食べたいという当時の一般国民のニーズ(欲求)を満たせませんでしたが、患者さんに栄養バランスのとれた食事をさせたいという医療関係者のニーズに見事合致したことで事業性が評価されたと言えるでしょう。

顧客(消費者、利用者など)にとって価値のあるモノやサービスを提供できることが「事業性評価」を高めるポイントになるのではないでしょうか。

《 前田 通孝 / 中小企業診断士 》