「まんぷく」からの経営ヒント

 以前このコラムで、「まんぷく(日清食品の創業者である安藤百福氏とその妻をモデルにしたNHK朝ドラ)に見る事業性評価」として経営のヒントについて執筆しましたが、ドラマの終了にあたり、経営のヒントをもう一つ紹介します。

ドラマでは、30円だった即席ラーメン「まんぷくラーメン」に対して、新たに開発したカップ麺「まんぷくヌードル」を100円で販売を始めたのですが、なかなか売れませんでした。カップ麺は、中に具が入っていたり、どんぶりを用意する必要はなかったりなど普通の即席ラーメンより質や利便性に勝る面があるのですが、それだけで即席ラーメンの3倍以上のお金を払って買う人はなかなかいません。そこで、100円でも買ってくれる人をさがすことにしたのです。言い換えれば、100円の価値を分かってくれる人に売ろうとしたのです。普通に家庭で即席ラーメンが食べられる環境にある人であれば、多少便利でも3倍以上のお金を払ってカップ麺を買う人はいないでしょう。でも、どんぶりはない、あっても洗う時間や設備がない、ゆっくり座って食べる時間がない、外で食べなければならない・・・こういう人たちが買ってくれたのです。ドラマでは、運転手さんの夜食としてタクシー会社で爆発的に売れたことになっていますが。

歴史上の出来事としては、1972年のあさま山荘事件の時、事件解決のために何日間も山荘を包囲していた機動隊員がカップ麺を食べていて、それがテレビ中継によって放映されカップ麺の知名度が高まりその後の大ヒット商品につながったと言われています。

さらに、欧米化の進行で、外で歩きながら食べることへの抵抗感が薄れ、むしろ若者世代にとっては“おしゃれ”なこと、当時の若者言葉で言うと“ナウい”ことと映ったことも大ヒットの要因かもしれません。

基本的には、同じような商品であれば安い方が売れるわけですが、買う人が何を求めているのか、どういう状況に置かれているのか、どんな感性を持っているのかなど的確につかんでそこをターゲットとすれば、その人は価格に見合った価値を見出して買ってくれるということです。自宅で食べる人にとっては高くても、冬の夜に外で震えながら食べる人や歩きながら食べることをおしゃれと思っている人には決して高くないのであり、高い安いというのは、買う人にとってどんな価値があるかで決まることを「まんぷく」は教えてくれています。

《 前田 通孝 / 中小企業診断士 》