中小企業診断士が巡る、練馬の街~Kitchen Cafe ゆず~

【店舗紹介】

練馬春日町駅から徒歩5分、練馬区春日町の住宅街に2025年4月に開業した「Kitchen Cafe ゆず」。オーナーの小村法子さんが手がけるこの店は、無添加・手作りにこだわった惣菜・デリとカフェを組み合わせた、地域密着型の小さな飲食店です。


 店内は11席(カウンター3席、テーブル8席)とこぢんまりとしているが、ショーケースには手作りのお惣菜やケーキが並び、食事とドリンクのセットメニューも展開しています。月曜定休で火〜日の11:30〜19:30営業。PayPayにも対応しており、近隣住民が気軽に立ち寄れる環境が整っている。 来店客からは「無添加で全て手作り」「自然派みたいな柔らかな味付け」「こだわり抜いているのにこの値段」といった声が聞かれる。小村さんが掲げるのは“地域の食卓”というポジション。特別な日のためのレストランではなく、日常の食事をちょっと豊かにする存在として、地域に根を張ることを目指しています。

店舗情報

店名:Kitchen Cafe ゆず
住所:東京都練馬区春日町4丁目18−8 第三小野ビル 1階店舗A
席数:カウンター3席、テーブル8席
Instagram: https://www.instagram.com/kitchen_cafe_yuzu/

【直面した課題】原価管理の不在

 開業から数か月が経過したタイミングで実施したフォローアップ診断において、財務上の重要な問題が浮き彫りになりました。食材原価率が、創業時の事業計画で想定した水準の約2倍で推移していました。
 一般に飲食業における食材原価率の目安は30〜35%とされる。この水準を大きく超えた状態が続くと、客数・売上が伸びても手元利益が積み上がらない構造に陥る。繁盛しているように見えて資金繰りが苦しくなる——創業期の飲食店が直面しやすい典型的な危険信号です。
  背景を丁寧にヒアリングすると、原因は「管理の怠慢」ではなかった。小村さんは“地域の食卓”を実現したい一心で、食材のグレードや量に妥協できずにいた。また、値付けについても「この価格でないとお客さんに来てもらえないのではないか」という不安から、根拠のない低価格設定が続いていた。問題の本質は、個々の商品がいくらのコストで作られているかを正確に把握する仕組みがなかったことにありました。感覚と想いで運営されていたがゆえに、数字が見えていなかった状態です。

【解決へのアプローチ】
原価の見える化と値付けの再設計

 診断を通じてまず着手したのが、メニューごとの原価計算シートの整備でした。使用食材・使用量・仕入れ単価を入力し、1品あたりの原価と原価率を算出する仕組みをExcelで構築。ITツールの導入ではなく、まず「自分の店の数字を自分で把握できる状態を作る」ことを優先しました。
 原価が可視化されると、打ち手が具体的になります。原価率の高いメニューは販売価格の見直しを行い、使用量の多い食材については仕入れ先の再検討や代替素材の活用を検討する。一方で、原価率が低く回転しやすい商品は積極的に訴求する構成へと見直す。こうした商品ポートフォリオの調整が、全体の原価率を引き下げる現実的な手段となります。 “地域の食卓”というコンセプトや無添加へのこだわりは変えない。ただし、そのこだわりを持続可能な収益構造の上で実現する——この発想の転換が、支援の核心でした。取り組みを実行に移した結果、原価率は徐々に改善し、現在は事業計画に近い水準まで落ち着いてきています。

【診断士の視点】
創業期に原価管理が後回しになる構造的な理由

 創業期の小規模飲食店において、原価管理の問題は珍しくない。むしろ、顧客への想いが強い経営者ほど陥りやすい落とし穴といえます。「喜んでもらいたい」という動機は開業の原動力であり、それ自体は経営資源です。しかし同じ動機が、価格を上げることへの罪悪感や、数字を直視することへの無意識の抵抗を生む場合があります。
 原価管理は「冷たい合理化」ではなく、想いを長く続けるための土台です。Excelによる原価把握と適切な値付けは、経営を数字で縛るためではなく、経営者が自分のコンセプトを守り続けるための手段となります。

平林丈晴 <アドバイザー>

創業支援やマーケティング支援が得意

飲食業での経験が豊富です。

自身も創業した経験を活かして、ネリサポでは創業塾での登壇も行っています。