なぜ創業融資では自己資金が必要なの?

創業融資では自己資金の要件が定められていたり、明記されていなくても実質的には要件が存在していたりします。具体的には必要資金の3分の1や4分の1以上の自己資金が必要なケースが多いです。

その理由の1つとして、事業者の財務の安全性を図る指標である「自己資本比率の正常な水準が30%程度である」ということが挙げられます。自己資本比率とは全ての資産のうち純資産で賄われている割合を表します。全ての資産とは、現預金・売掛金・在庫・設備・保証金等を指します。純資産とは資本金と過去からの利益の蓄積を指します。つまり純資産とは「自分のお金」のことです。

例えば、総資産が10百万円、純資産が3百万円であれば自己資本比率は33%となり、財務の安全性は問題ない水準です。一方で総資産が10百万円、純資産が1百万円であれば自己資本比率は10%となり、財務の安全性に懸念がある水準となります。

仮に創業時に必要資金10百万円に対して自己資金が1百万円しかない場合、自己資本比率は10%になります。これでは創業時点で財務の安全性に懸念がある状態になってしまいます。金融機関としては融資した時点で財務の安全性に懸念がある状態になる事業者とは取引しにくいでしょう。そのため創業融資では自己資金に関する要件があるということです。

なお、事業を開始して何年も経過した時点で融資の申込みをするケースでは、あまり自己資金の話は出てきません。どちらかと言うと、その時点の利益と借入のバランスや自己資本の状況が重視されます。

昨今、創業融資において自己資金の要件が明記されないケースが増えていますが、上記の理屈を踏まえると、やはり創業に向けて自己資金をしっかりと貯めていくことは必要でしょう。

《 森川 泰裕 / 中小企業診断士 》