今から準備!2026年度税制改正 節税のために知っておきたい「個人事業主の確定申告」
はじめに
2026年(令和8年)3月31日、「令和8年度税制改正関連法」が成立しました。今回の改正は物価高への対応が大きな柱で、基礎控除の大幅な引上げ、青色申告特別控除の見直し、消費税インボイス経過措置の再編など、個人事業主の確定申告に直結する項目がそろっています。
「ニュースで『年収の壁』は聞いたけれど、自分の事業にどう関係するのか分からない」「何から準備すればいいの?」という方も多いのではないでしょうか。実は今回の改正には、放っておくと損をしてしまう“落とし穴”と、今から動けば確実に節税につながる“チャンス”の両方が含まれています。 本記事では、区内で事業を営む個人事業主の方、これから創業を考えている方に向けて、特に影響の大きい改正を厳選し、実例を交えて解説します。
【5分でわかる】2026年度税制改正・個人事業主の3大ポイント
✅ 減税 基礎控除が大幅引上げ(令和8年分から)。合計所得金額489万円以下なら基礎控除104万円に
✅ 注意 青色申告特別控除を見直し(令和9年分から)。紙の申告は55万円→10万円、電子対応なら最大75万円
✅ 消費税 インボイス「2割特例」が終了。個人事業主は令和9・10年分限定の「3割特例」へ

基礎控除が大幅アップ ― 多くの個人事業主が減税に
今回の改正の目玉は、所得税の基礎控除の引上げです。いわゆる「年収の壁」は、給与収入ベースでは、令和7年度改正の160万円から、さらに178万円まで引き上げられました。給与所得者の話と思われがちですが、基礎控除はすべての納税者に適用されるため、個人事業主にもしっかり恩恵があります。
具体的には、基礎控除の本体(本則)が58万円から62万円になり、物価上昇に連動して2年ごとに見直す仕組みが恒久制度として創設されました。さらに令和8年分・9年分は時限的な上乗せがあり、合計所得金額(事業所得のみの方は事業の儲け)が489万円以下の方は基礎控除104万円、489万円超655万円以下の方は67万円となります。
【表1】合計所得金額別の基礎控除額(所得税)
| 合計所得金額(事業所得等の合計) | 令和7年分(改正前) | 令和8・9年分(改正後) |
| 132万円以下 | 95万円 | 104万円 |
| 132万円超 336万円以下 | 88万円 | 104万円 |
| 336万円超 489万円以下 | 68万円 | 104万円 |
| 489万円超 655万円以下 | 63万円 | 67万円 |
| 655万円超 2,350万円以下 | 58万円 | 62万円 |
| 2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 | 48万円 |
| 2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 | 32万円 |
| 2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円(基礎控除の適用なし) | 0円(基礎控除の適用なし) |
※住民税の基礎控除そのものは所得税のような104万円への引上げ対象ではありません。一方、給与所得控除や扶養親族等の所得要件には関連改正があります。

実例:フリーランスのAさん(事業所得400万円)の場合
Webデザイナーとして独立しているAさんの事業所得は400万円。改正前の基礎控除は68万円でしたが、令和8年分からは104万円に。課税される所得が36万円減るため、税率10%の方で約3.6万円、20%の方で約7.2万円の所得税が軽くなる計算です(計算の簡略化のため復興特別所得税など他の要素は加味していません)。手続きは不要で、令和9年3月の確定申告(令和8年分)で改正後の控除額を記載するだけ。「知らずに改正前の金額で計算してしまう」ことのないよう注意しましょう。

家族のパート収入の「壁」も広がる
配偶者控除や扶養控除の対象となる家族の所得要件も58万円から62万円(給与収入136万円)に引き上げられ、配偶者特別控除を満額受けられる配偶者の給与収入は169万円までになりました。家族がパートで働いている事業主にとっては、家族の働き控えを減らせる改正です。なお、事業専従者として給与を払っている家族は配偶者控除等の対象外のため、専従者給与とどちらが有利かの確認をおすすめします。また、控除を受ける事業主(納税者本人)のその年における合計所得金額によっても控除額は変動します。

青色申告特別控除の見直し ― 「紙の申告」のままだと大幅減
個人事業主への影響が最も大きいのがこの改正です。複式簿記で記帳している青色申告者の特別控除が、申告方法によって次のように変わります。

【表2】青色申告特別控除の改正前後(令和9年分から適用)
| 記帳・申告の方法 | 改正前 | 改正後 |
| 複式簿記+e-Tax申告+優良な電子帳簿または請求書データ等との自動連携 | 65万円 | 75万円(拡充) |
| 複式簿記+e-Tax申告 | 65万円 | 65万円(変更なし) |
| 複式簿記+紙(書面)で提出 | 55万円 | 10万円(縮小) |
| 簡易簿記(前々年の収入1,000万円以下) | 10万円 | 10万円(変更なし) |
| 簡易簿記(前々年の収入1,000万円超) | 10万円 | 0円(対象外に) |
実例:紙申告を続けてきた小売店のBさんの場合
複式簿記で帳簿を付け、毎年申告書を紙で提出してきたBさん。このままだと令和9年分から控除が55万円→10万円に減り、課税所得が45万円増えます。所得税と住民税を合わせて年間約9万円の負担増です(所得税率10%・住民税率10%と仮定した概算)。一方、e-Taxでの申告に切り替えるだけで65万円控除を確保でき、会計ソフトで「優良な電子帳簿」の要件(訂正・削除履歴が残る等、一定の要件・手続を満たす必要がある)または請求書データとの自動連携に対応すれば、75万円控除も狙えます。

適用は令和9年分(2028年3月申告)からなので、まだ1年半以上の準備期間があります。マイナンバーカードの取得、e-Taxの利用開始、会計ソフトの導入・見直しを、今のうちに済ませておきましょう。今回の改正は「電子化に対応した人ほど得をする」設計になっています。
消費税インボイス ― 「2割特例」が終了し、個人は「3割特例」へ
インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった方の負担を抑える「2割特例」(納税額=売上にかかる消費税の2割)は、令和8年分の申告で終了します。その後継として、個人事業主に限り、令和9年分・10年分の2年間は納税額を売上にかかる消費税の3割にできる「3割特例」が設けられました。事前の届出は不要で、申告書に適用する旨を記載するだけで使えます。

実例:Web制作業のCさん(税抜売上600万円)の場合
売上にかかる消費税が60万円のCさんの納税額は、2割特例なら12万円、3割特例なら18万円。簡易課税(サービス業=みなし仕入率50%)だと30万円なので、Cさんは3割特例が有利です。一方、卸売業(みなし仕入率90%)や小売業(同80%)の方は、簡易課税を選んだ方が納税額は少なくなります。特例を使った翌年からは「申告期限までに届出を出せば簡易課税に移行できる」措置も新設されたので、業種ごとの有利判定を忘れずに行いましょう。 なお、御売業や小売業であっても、多額の設備投資を予定している場合など、一定の場合は簡易課税の選択が不利になるケースもありますので、専門家と相談し判断することをお勧めします。

仕入側の経過措置も縮小
インボイスを発行できない免税事業者からの仕入れについて、消費税の80%を控除できる経過措置は令和8年9月末で終了し、同年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%、令和13年10月以降は0%になります。免税事業者の外注先・仕入先がある場合は、仕入税額控除への影響を確認したうえで、一方的な価格引下げや取引停止とならないよう、相手方と十分に協議しながら、価格・契約条件・自社の販売価格への転嫁を含めて検討することが重要です。
あわせて押さえたいその他の改正
- 少額減価償却資産の特例の拡充
青色申告を行っている事業者を前提としますが、即時経費化できる資産の上限が取得価額30万円未満から40万円未満に引き上げられます。令和8年4月1日以後に取得等した資産から適用され、適用期限は令和11年3月31日までです。年間合計300万円までという上限は維持されます。パソコンや厨房機器などの設備投資がしやすくなります。
- 償却資産税(固定資産税)の免税点引上げ
事業用の機械・備品等の課税標準合計が180万円未満なら課税されません(現行150万円未満)。令和9年度分以後の固定資産税から適用されます。
- 従業員の食事補助・通勤手当の非課税枠拡大
食事支給の非課税限度額が月3,500円から7,500円に引き上げられます。また、マイカー・自転車等で通勤する従業員については、遠距離通勤者の非課税限度額が拡充されるほか、一定の要件を満たす駐車場・駐輪場等の料金相当額について、月5,000円を上限に通勤手当の非課税限度額へ加算できるようになります(通勤距離が片道2km未満である人を除く)。いずれも、原則として令和8年4月1日以後に支給・支払われるものから適用されます。
- 防衛特別所得税の創設
令和9年から所得税額の1%が付加されます。同時に復興特別所得税が1%引き下げられるため、当面の負担は実質変わりません。

今からできる!準備チェックリスト
- 確定申告をe-Taxに切り替える(マイナンバーカードの取得から)
- 会計ソフトの「優良な電子帳簿」対応・請求書データ等の連携を確認する
- 消費税は「3割特例・簡易課税・本則課税」の有利判定をする
- 設備投資は「40万円未満」と購入のタイミングを意識する
- 家族のパート収入・専従者給与の「壁」を確認する
- 迷ったら早めに専門家へ相談する(税務署・青色申告会・地域の支援機関など)

おわりに
今回の税制改正は、多くの個人事業主にとって基礎控除の引上げなどの減税メリットがある一方、青色申告特別控除では「紙のまま」だと不利になり、電子化に対応した人ほど控除を受けやすくなる方向が明確になっています。
そのため、今からe-Taxや会計ソフト、帳簿保存の状況を見直しておくことは、確定申告の負担を減らすだけでなく、将来の控除額を守るための準備にもなります。インボイス制度や設備投資、従業員向けの非課税制度も含め、自分の事業に関係する改正を早めに確認しておきましょう。 確定申告は1年間の経営の成績表です。期限直前に慌てるのではなく、今から少しずつ準備を進めることが、節税や事務負担の軽減につながります。本記事が、皆さまの「今から準備」の第一歩となれば幸いです。






