中小企業診断士が巡る、練馬の街 ~高濃度炭酸泉の川場湯~

感染症対策にも余念がありません

 サービス業での店舗設計は、お客様が心地よく過ごせる空間を作ることが重要です。今回は、銭湯を経営されている桜台の川場湯さんを参考にしながら、サービス業に応用できる店舗設計の基本ポイントをご紹介します。川場湯さんは私にとって初めてご支援した思い出のある事業者さんで、当時はボランティアでご支援させて頂きました。少々読み応えがありますが、最後までお付き合いください。

店舗情報
店舗名:川場湯
住所: 東京都練馬区桜台3丁目15−14
「氷川台」駅から徒歩2分というアクセスの良い立地にあります。昭和33年の創業で、現在2代目店主の津野和俊さんは、平成22年の大規模リニューアルをきっかけに親から経営を引き継ぎました。経営環境の厳しい銭湯業界において「目玉になるもの」がある銭湯を目指すことで、コロナ禍の荒波を経て堅実な経営をされています。

 

「“高濃度”炭酸泉がウチの目玉」

 ポイント:差別化は、事業経営の成功に欠かせない要素です。独自の価値を提供することで、顧客に選ばれる店舗を目指しましょう。

 津野さん:「大規模リニューアルにあたり、銭湯業界を取り巻く環境を踏まえ、『目玉になるもの』が必要で、体に負担が無く、健康に良いものにしようと決めていました。」とお話を始めてくださいました。「あれこれ検討した結果、”高濃度”炭酸泉にたどり着きました。健康に良いものはたくさんあり、かなり悩みました。」と高濃度炭酸泉導入の経緯をお話ししてくださいました。

たくさんの泡は高濃度炭酸泉の証

 更に続けて、「ウチの高濃度炭酸泉は、“世界屈指の炭酸泉”と呼ばれる大分県長湯温泉と同等以上の濃度で、炭酸泉通のお客様も認める高濃度炭酸泉なんです。オリンピック選手や遠くから来てくれるお客様も多数いらっしゃいます。」と津野さん。この後、炭酸泉に関する様々な知見をお話ししてくださいました。こんなに炭酸泉に詳しい人は、そうは居ないのではないだろうかと感心してしまいました。

 それでは、川場湯さんの他の取組みについて中小企業診断士目線を交えながら見ていくことにします。

お客様を引き込む「入口」の印象

ポイント:お客様に「入りやすさ」を感じてもらうことが、サービス業の店舗設計では大切です。入り口から店舗のコンセプトを示し、お客様が「何屋なのかが直ぐわかる」、外観だけでも気軽に立ち寄れる雰囲気を作り出すことが重要です。

 川場湯さんの入口には、看板やのれんが出迎え、初めて訪れる人にも「どんな銭湯なのかが直ぐわかる」デザインです。入口にはベンチが配置され、待ち合わせや休憩ができる工夫もされています。また、コインランドリーがあり入浴中に洗濯を終えることができるように配慮されています。

使いやすさを高める「動線」の設計

ポイント:サービス業の店舗づくりで、動線設計は非常に重要です。例えば、飲食店では、入口から席への動線や注文カウンターの配置がスムーズに行えるように設計します。動線のスムーズさは、お客様の移動ストレス軽減による満足度向上やついで買いの誘発に繋がります。

 川場湯さんでは、入口から脱衣所、ぬる湯、薬湯、露天風呂、立ちシャワーに至るまでの順路が明確に設定されており、それぞれのエリアが迷いなく利用できるように配置されているので、初めて訪れるお客様でも迷わず利用できます。

清潔に対する徹底したこだわり

 ポイント:どの業種でも、お客様に安心感を与えるために、清潔感のある明るい空間づくりは欠かせません。お店が汚れているとお客様は2度と来店してくれません。無駄を省き、必要な設備を整えることで、利用者が気持ちよく過ごせる環境を提供しています。

 この点に関して津野さんは、「銭湯は清潔さが非常に重要ですので清掃は毎日徹底してやっています。銭湯ならではの汚れやすい場所があり、そこは特に念入りに清掃します。ウチの照明は明るめなのですが、こちらの方が清潔感と開放的が増すと考えています。」とのこと。 私が取材したときも明るく開放感を感じたのは、気のせいではなく、清潔・清掃に対する川場湯さんの自信の表れだと感じました。

お客様のリラックスを促す「浴場」のつくり

ポイント:サービス業においても、イベントや期間限定のサービスなどを提供することで、顧客に新鮮さや特別感を与えることができます。飲食店なら季節限定メニューを取り入れるなど、常に新しい体験を提供することで、リピーターの獲得や他店との差別化が実現できます。

 川場湯さんでは、高濃度炭酸泉、ジェット、ぬる湯、薬湯、露天風呂、立ちシャワーなど多様な入浴施設を設置し、お湯は井戸から汲み上げる天然の軟水です。都内屈指の高濃度炭酸泉風呂は、温泉同様の効能が期待できます。露天風呂では、四季折々の雰囲気を楽しむことができます。このように明るく清潔で、入浴するお客様が心身ともにリラックスできる空間を提供しています。また、定期的に「セージ湯・ゆず湯」といった特別な入浴イベントを実施し、訪れるたびに異なる体験ができる工夫がされています。

リラックスを後押しする「休憩スペース」

ポイント:基本サービスに加え、リラックスできるプラスアルファの付加価値を提供することが、他店との差別化に繋がります。例えば、カフェであれば、居心地の良いソファ席やBGM、電源コンセントを用意することで、お客様に「ここで過ごしたい」と思ってもらえる空間を作り出すことができます。

湯上がり後のくつろぎスペース

 川場湯さんには、入浴後にくつろげる休憩スペースが用意されており、飲み物の自販機等が設置されています。また、プロテインドリンクの取り扱いを始め、好評を博しているとのことで、最近のトレンドをしっかりとキャッチアップされています。入浴後もゆっくりと過ごしたいお客様に追加の満足感を提供しています。

基本的な情報発信の実践

ポイント:SNS等を使うと、広範なリーチ、低コスト、ブランド認知度の向上、顧客との関係構築、リアルタイムな情報発信が可能です。ターゲットを明確にし、一貫性を保ち、ビジュアルコンテンツを活用し、顧客との対話を大切にしましょう。

Googleビジネスプロフィール

 川場湯さんでは、GoogleビジネスプロフィールやSNSを活用し、最新情報やイベントを発信しています。これにより、顧客とのコミュニケーションを強化し、集客力を向上させています。継続的な情報発信の甲斐があり、ねとらぼの『「練馬区で人気の銭湯」ランキングTOP10! 1位は「川場湯」【2024年6月版】』等の評価を受けています。

参考URL:https://nlab.itmedia.co.jp/research/articles/2717586/

川場湯ブログ:https://kawabayu.asablo.jp/blog/

まとめ

 川場湯さんに見る店舗設計には、他店との差別化要素が随所に盛り込まれており、どの業態でも応用できるヒントが満載です。入口での安心感の演出から、使いやすい動線、徹底した清潔、変化を楽しめる工夫、追加のリラックススペースなど。 これらのポイントを取り入れることで、顧客が「また訪れたい」と感じる店舗づくりを実現しています。川場湯さんの工夫を現地でご確認してみてはいかがでしょうか。

早川 昌宏 <チーフアドバイザー>

事業プロデューサー/販売促進や営業活性化等を支援します。

事業活動に求められる「ヒト・モノ・カネ・情報」を状況に合わせ、上手く組み合わせます。特に、情報(IT)分野では、法人IT系コンサルの経験ノウハウをベースとした「業務とシステムは両輪。しかし、ITはツールでしかない」をモットーに、儲かる仕組みを一緒に考えていきます。