中小企業診断士が巡る、練馬の街 ~ お花&ブーケ加工屋さん 花刻 ‐ハナコク‐ ~

今回は、お花&ブーケ加工屋さん 花刻‐ハナコク‐の紹介です。花刻では結婚式のブーケやプロポーズの花束の花を半永久的に残すことができるように樹脂で加工し、フォトフレーム、リングスタンド、置物などのインテリア商品を制作しています。花刻 の代表のここさんに話を伺いました。
店舗情報

店舗名:花刻 - ハナコク -
代 表:ここ
業 種:製造小売業
商 品:大切な花を加工したインテリア商品
花刻の紹介:思い出のお花をインテリアに
現時点では花刻に実店舗はありませんが、Instagram(SNS)で情報発信を行い、STORES(オンラインショップ)でお客様からの注文を受け付けています。
花刻の最大の魅力は、お客様から受け取った生花を乾燥させてから樹脂で固めることにより、結婚式など大切な思い出が詰まっているブーケの花を半永久的にインテリアとして手元に置いておけることです。お客様から受け取った花を使って商品を作りますので、商品に使われている花もデザインもお客様ごとに異なる完全なオーダーメイド商品です。
ブーケの花を残したい:ニーズの発見

花刻の最初のきっかけとなったのは、一昨年(2023年)、ここさんが自分の結婚式のブーケの花を樹脂で加工して残したいと思ったことでした。結婚式前後の忙しさから、結局ブーケの花を加工して残すことはできませんでしたが、この経験から、花嫁が結婚式のブーケを残したいというニーズに気付きました。
会社員との両立:時間を確保、小さく始める
結婚式が終わって数か月経った頃、ここさんは、樹脂による花の加工方法について調べ、小さな作品をいくつか作り始めました。小さな作品から徐々に大きな作品(現在の商品と同じ形)に挑戦し、商品として販売できそうだと自信をつけたところで、昨年(2024年)の2月からInstagramでの発信を始めました。
Instagram の発信やオンラインショップの構築は、会社の通勤時間30分×2回(往復)にやると決め、短時間ながらも着実に作業時間を確保していきました。
ここさん曰く、電車でのSNS活動は「えいや!(妥協)の連続」だそうです。こっちのデザインが良いかな?でもやっぱりこうかも…そんな風に考え出すといつまでも完成しない、でも電車の降りる駅が迫ってきている、もう今日はこれでいいや(えいや!)。そんな風に時間制限のある環境だからこそ完璧主義にならずに日々コツコツと続けられました。
花刻のこれから:会社員からの卒業
現在、InstagramやSTORESの管理、商品に使う生花の受け取り、商品の制作、商品の発送など、すべての業務をここさんが行っています。そして、ここさんは実は今でもフルタイムの会社員として勤務を続けています。
花刻の業務ができるのは平日の夜、土日、有給休暇を取得した時だけです。特にお客様から届いた花はすぐに乾燥させなければなりませんので、同時に受けられる仕事には限りがあります。注文があまりにも多くなると、すべての注文に対応する時間が足りなくなり、注文をストップせざるを得ないことがあります。注文が多いのはありがたいことのはずですが、注文しようと思っていたお客様が花刻で注文できない事態になるのは、非常に残念です。
今後、花刻で受けられる仕事量を増やすことができるようにするために、ここさんは今年(2025年)中には会社を辞めて花刻の仕事に専念することを計画しています。また、将来的には、自分の代わりに商品の制作をするスタッフを育てることも視野に入れています。
起業するということ:必要な3つの要素
花刻の仕事ではここさんが1人で、花の受け取りから、材料の仕入れ、営業活動、雑用に至るまですべてを行っています。一部、家族の助けを得ていますが、基本的には1人で行っています。
このように、起業すると、すべてのことを自分の責任で遂行しなければなりません。起業には好きなことを仕事にできるというイメージがあるかもしれませんが、実際には、すべての業務を自分で行わなければならないので、自立して仕事を進める能力が不可欠です。ここさんのように、自分で考え自分で行動できる人であれば、障壁となるものを克服し、目標に向かって努力し、事業を良い方向に進ませることができます。
また、どんな事業で起業するかについて、一般的に、やりたいこと、できること、求められていることのバランスが重要であると言われています。

- 自分がやりたいことでなければ事業を継続することができません。
- 自分ができることでなければお客様が望むクオリティーを提供することができません。
- 求められていることでなければ市場にニーズがないため収入を得ることができません。
ここさんの事業には、これら3つの要素がどれも含まれています。まず、ここさんは、結婚式のブーケを残したいというニーズがあることに着目しました。これは求められていることです。次に、やりたいこととして、ここさんは子供の頃から、編み物、刺繍、アクセサリー作りなど手を動かして作ることが好きでした。

そして、できることとして、大学で専攻した農学や仕事で携わった造園業の知識や経験を通し、花の乾燥など、お客様が満足するクオリティーを提供できる知識や技術を有しています。また、自分の結婚式のために樹脂でイヤリングを作ったことがあり、樹脂による加工の技術も持ち合わせていました。
これから起業したい方へ:常にアンテナは立てておく
ここさんに、これから起業したい方へのメッセージについて聞きました。
ありがちなことですがまずは小さく始めることだと思います。
でも小さく始めることもできない、そもそも何を小さく始めれば良いのか分からない、そんな時は常にアンテナを立てておこうと心掛けていました。
毎日シャワーを浴びるように流れていく情報の中で、自分のアンテナにほんのちょっと引っかかった情報を頭の片隅に残していく、そんな小さな集合体がいつの間にか私を起業に導いてくれました。
小さく始めて大きく育てることは、起業ではよく言われますが、案外と実践が難しいものです。起業への思い入れが強いと大きな期待をし過ぎて、過剰な設備投資や雇用などをしてしまいがちです。起業に大きな夢を描くことは大切なことですが、その過程において、現実的な進め方をすることは同様に大切なことです。起業時点で大きく始めてしまうと、お金を使い過ぎて利益が残らなかったり、大きな仕事ばかりを狙って結局受注できなかったりということが起きてしまいます。
起業したいけど、どんな事業で起業したいかわからない場合、ここさんが話しているように、アンテナを立てて市場のニーズに敏感でいれば、その中に、自分のやりたいこと、できることを見付けることができるでしょう。
いったん起業してしまうと、その事業の全責任を負うことになりますので、起業を考えている方には、その覚悟を持って取り組んで頂きたいと思います。
商品の紹介
現在、花刻の商品としては、フォトフレーム、リングスタンド、和縁(丸形の置物)、亀甲(亀の甲羅型の置物)の4種類があります。




今後、形を1~2種類増やすことや、イヤリングなどのアクセサリー商品も検討しています。
商品1つを制作するために手を動かす時間は合計で8時間程度ですが、花や樹脂の乾燥など時間を置かなければならない作業があるため、作業日数としては約10日間、注文を受けてから商品が完成して発送するまで、全体で2~4か月ほどかかります。
【制作の流れ】
- ブーケまたは花束の花をお客様から宅配便などで受け取る。
- 生花はすぐに傷むため、受け取り次第すぐに花を乾燥させる。
- 乾燥後、デザイン(花の配置)を決める。
- 型に花を配置し液体の樹脂を流し入れる。
- 樹脂が十分に固まったら型から外す。
- 磨き上げて、最後の仕上げをする。
【お客様からの声】
- 「結婚式の日を思い出した」
- 「思い出を素敵な形に残せた」
- 「花がそのままの形になったのがすごく嬉しい」
- 「薔薇は深い色合いが、カーネーションは透き通るようなみずみずしさが魅力的」
- 「大切なお花を可愛く保存してくださり感謝」

岡本 麻代 <アドバイザー>
事業計画作成や販路開拓などの支援に力を入れています。
起業に関する困りごと、経営に関する悩みや苦労など、お気軽にご相談ください。