中小企業診断士が巡る、練馬の街 ~67焙煎所~

「ろくなな写真館」の館主が始めたコーヒー焙煎所「67焙煎所」。「写真」と「コーヒー」という一見異なる事業を通して、人々の大切な時間に寄り添い、豊かなひとときを提供されています。この記事では、「ろくなな写真館」と「67焙煎所」のうち、「67焙煎所」に焦点をあててご紹介します。
事業紹介
東京都練馬区豊玉中にある「67焙煎所」は、写真館「ろくなな写真館」と併設されたコーヒーの焙煎所です。
写真館としての営業の合間を活用し、写真館内で本格的な深煎りコーヒーを提供しています。
67焙煎所は、2023年3月にスタートし、写真館のお客様だけでなく、地域のコーヒー好きも訪れるスポットになっています。

店舗情報
店舗名:67焙煎所
所在地:練馬区豊玉中3-14-12
営業時間:不定期(Instagramで公開)

「67焙煎所」は、現役カメラマンの山口さんが写真を現像するように丁寧に焙煎する深煎りコーヒーの焙煎所です。
写真もコーヒーも、人生を豊かにしてくれるアイテムの一つであり、どちらも「笑顔と穏やかなひと時を届けたい」という同じ想いから生まれています。
また、理想的な仕上がりを想像し、丁寧にそこに近づけていく点で作業工程も通じているといいます。
このような温かい思いから丁寧に仕上げられたコーヒーは、人々の大切な時間を彩り、豊かな人生のひとコマを提供してくれます。
私も実際に立ち寄ってみると、ひとつひとつの作業の丁寧さとゆったりと流れる時間の豊かさを実感し、居心地の良さを感じました。

コーヒーは、店内でもテイクアウトでも味わえます。また、ネット販売でコーヒー豆を購入することも可能です。https://coffee67.stores.jp/
店舗は、写真館として写真撮影をしている時はお休みで、営業日と営業時間が SNS で毎日共有されるというスタイル。不定期営業ながらSNS発信でファンとつながり、柔軟な営業スタイルを成立させられています。
不定期営業なことがかえって「今日は営業されているかな?」とSNSをチェックすることが楽しみになり、私も自然とファンになっていきました。
きっかけはコロナ禍
コロナ禍で営業が制限される中、空いた時間を活用して、趣味だったコーヒーを本格的に事業化。
もともと好きだったコーヒーと、写真館の空間を活かして「写真と珈琲」という新しい提案を始められました。 一見、関連性のない事業展開に見えますが、3つの観点から新規事業開発のヒントになります。
①アイデア発想法

「笑顔と穏やかなひと時を届ける」という目的に対して、写真とコーヒーは手段です。コロナ禍で写真館の稼働が低下した際に、写真館の稼働をあげるための方法を模索するだけでは、写真というモノに思考範囲が制限されます。一方、「笑顔と穏やかなひと時を届ける」という目的本位で思考することで、現行の着想と異なるアイデアが生まれやすくなります。
単純な例をあげると、単価を上げる手段ばかりを考えて行き詰ってしまったとき、「単価を上げるのは何のため?」と自問して、まず目的を考えます。単価を上げる目的が、「売上を向上させるため」であるなら、販売数量を増やすという選択肢もあり、新たな着想が広がります。
②補完し合うビジネスモデル
写真館の売上は、記念写真などの予約制・高単価・不定期な「フロー型」収益がメインです。一方、67焙煎所のコーヒー販売は、比較的低単価ながら日常的な需要があり、頻繁なリピートにつながる「ストック型」収益といえます。
この二つを組み合わせることで、事業全体として収益の安定化が図られています。
店主が当初どこまで意識していたかはわかりませんが、「好きなことで誰かのひと時に寄り添いたい」という思いを軸に動いた結果、収益モデルとしてもバランスのとれた形に整っていったと見ることができそうです。 「ストック型」収益と「フロー型」収益は、経営を行う上で欠かせない考え方です。
③経営資源の有効活用

67焙煎所が持つもう一つの魅力は、限られた経営資源を、無理なく上手に活かしている点にあります。
写真館の一角に焙煎機を設置し、営業していない時間帯を活用してコーヒーの提供を始めたことで、空間も時間も上手に“シェア”する形の新しい事業が生まれました。アンティーク家具やレトロなソファ、ドライフラワーが並ぶ店内は、写真館ならではの温かみと落ち着きのある空間で、コーヒーを楽しみながら、ゆったり過ごせる居心地の良さを演出しています。
店舗を増やすわけでも、人を雇うわけでもなく、店主ひとりで自然な形で始められたことは、同じように新しいチャレンジを考えている方にとって大きなヒントになるかもしれません。
さらに、「ろくなな写真館」として地域に根ざしてきた店主の人柄とブランドの信頼感は、そのまま67焙煎所の魅力にもつながっています。写真もコーヒーも、どちらも“心地よいひととき”を届ける手段であり、その姿勢が空間全体に通じています。
地域とのつながり

67焙煎所は、コーヒーを提供する場所であると同時に、地域の人と人とが出会い、交わる小さな拠点にもなりつつあります。
きっかけは、常連のお客さんとの何気ない会話でした。マルシェを主催した経験がある方と話すうちに、「ここでもやってみようか」という流れになり、焙煎所でのマルシェ開催が実現。店主にとっては特別な準備をしたわけではなく、地域との自然な関わりの中から生まれた取り組みでした。
マルシェには、近隣の事業者や作り手たちが集まり、それぞれの想いや品が並びます。67焙煎所は、地域の小さな経済や文化が交差する場として、ささやかな交流のハブになっています。
また、コーヒー販売を始めたことで、「写真を撮る用事がないと入りにくい」と感じていた方にもふらっと立ち寄れる場所として親しまれるようになりました。写真館だけだったころに比べて、入店の敷居が下がったことで、地域との接点がぐっと広がった印象です。最近では、写真撮影ではなくコーヒーだけを楽しみに訪れるお客さまも増えており、地域の日常に溶け込んだ存在になりつつあります。初めての方も常連さんも、肩肘張らずに過ごせる空間——それが、67焙煎所のもうひとつの魅力かもしれません。
まとめ
67焙煎所は、「自分の好きを追求する」姿勢から生まれた、写真とコーヒーによる異業種コラボの実践例です。
「笑顔と穏やかなひと時を届ける」というブレない軸から始めた焙煎所は、写真館と補完し合うビジネスモデルとして形になり、限られた経営資源を有効に活用しています。不定期営業ながらSNSでファンとつながる柔軟なスタイルや、地域事業者とのマルシェ開催によるコミュニティ拠点化は、差別化と相乗効果をもたらしています。
“無理せず、好きなことで、地域とともに”。そんな在り方が、次の一歩を模索する事業者に静かなヒントを与えてくれます。

利光 洋一 <チーフアドバイザー>
会計・税務を軸として、起業や経営計画をサポートします
実務で使えるように、難しい会計の話しをシンプルに伝えます。漠然とした事業計画を整理して、収益計画として定量化するお手伝いをさせて頂きます。