カスタマー・ハラスメント防止条例が東京都で施行されました
- 条例の概要
令和7年4月1日より様々な法令・規則がスタートしたり、リニューアルされたりしています。そのような中、全国初のカスタマー・ハラスメント防止条例が、東京都・群馬県・北海道において施行されました。
東京都の条例の目的は次のとおりです[1]。
・カスタマー・ハラスメント(以下、カスハラ)防止の基本理念を定める。
・東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務を明確にする。
・カスハラ防止施策の基本的事項を定め、顧客等の豊かな消費生活・就業者の安全及び健康の確保・事業者の安定した事業活動を促進する。
・以上を以って、公正かつ持続可能な社会の実現に寄与する。
また、本条例に基づき制定された「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」では、社会全体での防止体制を構築するために必要な事項が定められています。
事業者は、カスハラが発生したら、就業者の安全を確保し行為者に中止を申し入れる等、必要に応じた措置を行います。
また、事業者として以下の取組みを行うことが求められます。ここでいう事業者とは規模や官民を問わず、都内の全ての事業者です。
- 社内外に対するカスハラ対策の基本方針・基本姿勢の明確化と周知
- 相談窓口の設置と体制の整備
- 被害防止のマニュアル整備
- 被害を受けた者への配慮
- カスハラの具体的な対応について就業者へ教育研修
- 取組みの定期的な見直しや対策の継続
なお、本条例はカスハラ防止の啓発に重点を置いているため罰則規定は置かれていません。しかし、カスタマーについては傷害罪、強要罪、名誉棄損罪など刑法や軽犯罪法の構成要件に該当すれば処罰される可能性があります。
- カスハラの弊害
カスタマーによる著しい迷惑行為(暴言、過度な要求、脅迫など)は、就業者の人格や尊厳を損ね、労働意欲の低下や就業環境の悪化を招くだけでなく、被害を受けた就業者の精神障害を引き起こす恐れもあります。
また、職場におけるいじめ・ハラスメントは被害者本人のみならず、被害を見聞きした人も心理的ストレス、精神疾患、仕事満足度が低下する可能性がある、という研究報告があります[2]。
そのような観点からも、従前から対策が義務付けられているパワハラ、セクハラ等だけでなくカスハラも含めた総合的なハラスメント防止対策は、必ず取組まなければなりません。
なお、2023年9月より精神障害の労災認定基準に、「顧客からの威圧的な言動や迷惑行為(カスハラ)」が加えられています。これにより従前より迅速・適正な労災補償がなされることが期待されます。
- カスハラ対策におけるポイント
カスタマーによる苦情や意見・要望は、裏を返せば、業務改善や新たな商品・サービス開発の起爆剤です。また、働く人は、商品又はサービスを提供する就業者であると同時にそれらの提供を受けるカスタマーでもあります。カスハラ対策を検討する際には、誰もがカスハラを受ける側にも行う側にもなり得るという広い視点が肝要です。
また、カスハラ対策を検討する機会に、職場におけるその他のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラなどの出産・育児・介護等に関するハラスメント)の対策についても振り返りましょう。これらの防止措置も規模等を問わず事業主の義務とされています[3]。
そして、今後も東京都から発信されるカスハラ対策に関する新たな情報は、随時チェックされることをお勧めします[4]。
《 緒方 美加 /社会保険労務士》
[1] 東京都産業労働局. (2025). TOKYOノーカスハラ支援ナビ.https://www.nocushara.metro.tokyo.lg.jp/ (閲覧日:2025年4月15日、以下同様)
[2] 津野香奈美. (2022). 神奈川県立保健福祉大学「パワハラを見聞きするだけで心身の不調やモチベーションが低下」研究報告
https://www.kuhs.ac.jp/shi/att/01793_22656_010.pdf
[3] 厚生労働省. (2024). 職場におけるハラスメント対策パンフレット. https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
[4] 東京都. (2025). 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例Q&A 条例・支援する取組み等 https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuhara_qa_2025_0328.pdf