中小企業診断士が巡る、練馬の街
 ~旬の肴 かかわり~

今回は、昨年11月に練馬駅近くにオープンした「旬の肴 かかわり(以下:かかわり)」のお話をとりあげたいと思います。こちらのお店ですが主に資金調達についてネリサポの経営相談をご利用いただいた事業者さまとなります。

店舗情報
店舗名:旬の肴 かかわり
住所:東京都練馬区練馬1丁目1−5 鹿島ビル
業種:飲食業(創作和食)
特徴:
漁師経験もある料理長が自ら目利きして仕入れた魚介類や、猟師と直接やり取りして仕入れたジビエを、他店舗とはひと味もふた味も違う工夫と味付けで提供しています

 昨年6月まで同じ店舗で従業員として働いていた中西さんと鄧さん。閉店を期にお二人が協力して新店舗の出店を計画。同年11月に中西さんがオーナー、鄧さんが料理長となり、めでたく「旬の肴 かかわり(以下:同店)」を開業しました。同店は開業から半年間の売上計画対比が141.2%と順調な滑り出しとなりました。
 本コラムでは同店の好調の要因を中小企業診断士視点で考察していきたいと思います。

 事業が収益を継続的に確保するためには、有効な「WHO(ターゲット顧客)×WHAT(提案価値)」の組み合わせを見つけて、ターゲット顧客にしっかりとその価値を伝える必要があります。

 では、同店はどのような「WHO×WHAT」を設定したのかを考察していきたいと思います。「WHAT」はその事業者の「経営資源」をもとに作られます。(下図参考)

同店の経営資源はおおむね以下の通りと考えられます。
 ① オーナーの業務経験・接客スキル(ヒト)
 ② 料理長の業務経験・調理スキル(ヒト)
 ③ 前店舗の常連顧客リスト(無形資産)
 ④ 食材の仕入れネットワーク(無形資産)
 ⑤ 練馬駅近くの立地(モノ)
これらの経営資源を活用して2つの「WHO×WHAT」を設定したと考えられます。

1.「前店舗の常連顧客」 × 「変わらない居心地の良さ」

開業時はどの事業者も売上が不安定になるケースが多いです。しかし、同店は上述の経営資源①③⑤を活用してこの不安定を簡単に乗り越えました。前店舗でもオーナーの接客サービスは好評だったおかげで(経営資源①)、多くの常連顧客(約140名)にInstagramやLINEに登録してもらっており、いつでもコンタクトがとれる状況を作りました(経営資源③)。
また、前店舗から離れていない場所に出店できたことも(経営資源⑤)、利便性の上ではプラス要因に働いたと考えられます。「居心地の良い場所」という誰にとっても強い価値を提案できたことは大きいと考えます。言語化するとごくごく当たり前のことなのですが、やはり当たり前のことを当たり前に実践できるお店は強いですね。

2.「店舗近隣のビジネスパーソン」 × 「元漁師の自慢の魚料理・ジビエ料理」

 常連顧客の維持はとても重要ですが、事業を継続させるためには新規顧客の獲得は必ず必要となります。こちらのお店の売りはなんと言っても「料理のクオリティの高さ」です。漁師経験もある料理長が自ら目利きして仕入れた魚介類や、猟師と直接やり取りして仕入れたジビエを(経営資源④)、他店舗とはひと味もふた味も違う工夫と味付けで仕上げた料理の数々(経営資源②)は前店舗でももちろん好評でした。

房総ポークヒレカツトリュフ塩

カツオのたたき

本マグロ漬け

 しかし、この「価値」というのは消費者に伝わらないと意味がありません。とくに飲食業の場合は、言葉や画像で伝わる割合は多くありません。では、どのように「美味しさ」という価値を伝えるのが良いか。「実際に食べてもらう」ことが一番のプロモーション活動となります。その為に有効な手段は「ランチ営業」ではないでしょうか。飲食店のような業態の場合、消費者の購買行動は以下のようなことが多いと考えられています。

 ここで重要なことは「ニーズの発生」毎に利用されるチャンスが発生するということです。つまり「ニーズの発生」回数が多ければ多いほど、利用されるチャンスが増えるわけですね。さてもし同店が夜の営業のみの場合だと、ターゲット顧客の「ニーズの発生」回数はどれくらいでしょうか?どんなにお酒好きの人でも月に1~2回程度なのではないでしょうか。これが「ランチ利用」というニーズに対応するとどう変わるでしょうか。近隣で働いている人をターゲット顧客とすると、平日ならほぼ毎日利用されるチャンスが発生すると思います。つまり「美味しさ」という価値を伝えるチャンスが何倍にもなるわけですね。そして「ランチ利用」で価値を体験したターゲット顧客は「同僚の飲み会」などの別のニーズが発生した時にも候補店舗に上がる確率が増えることとなります。こうして新しい顧客層を獲得し、リピートに繋げることが同店の事業拡大のための戦略と考えられます。
 また、「ランチ利用」に対応するためには、当然価格を1,000円前後に抑える必要があります。この課題に対しても独自の仕入れネットワーク(経営資源④)を活用して価格を抑えながらクオリティも保っています。(効率の良い店舗オペレーションを構築したことにより人件費も抑えており価格に反映しているとのことです。)

ハンバーグ定食 1,000円(税抜)

西京焼き定食 1,000円(税抜)

いかがでしょうか。今回ご紹介した事例では業種関係なく適用できる気付きがたくさんありました。

 ① 自らの経営資源を把握していますか?
 ② 経営資源を活用して、どんな価値を提案していますか?
 ③ その価値を消費者に共感してもらうために、どのようなことを行っていますか?

これらのことをもう一度整理して、今後の事業に活かしてみてはいかがでしょうか。

平林丈晴 <アドバイザー>

創業支援やマーケティング支援が得意

飲食業での経験が豊富です。
自身も創業し5年間で年間売上10億円まで成長させた経験を活かして、ネリサポでは創業塾での登壇も行っています。
どうやって粗利益を稼ぐかを一緒に考えていきましょう。