中小企業診断士が巡る、練馬の街 TRYOUT RECORDS
今回はネリサポの「ワンストップ相談による特定創業支援等事業」にご参加いただいた鈴木雄也さんの事業を紹介しながら「ブランディング」「コンセプト」についてお話していきたいと思います。
事業紹介
事業者名 | TRYOUT RECORDS |
代表 | 鈴木雄也 |
事業内容 | アマチュアバンド向けライブイベントの企画運営 |



ライブイベントを企画してアマチュアバンドからの出演料が収入となります。(実際のイベント集客は出演バンドがそれぞれ行う)。ライブハウス自身の主催イベント増加によりコモディティ化が進行。差別化が難しく、独自の価値を打ち出す必要があるといった事業特性(課題)があります。なお代表の鈴木さんはイベント企画/運営は15周年を迎えます。(独立は2年前)

代表 鈴木雄也さん
ブランドが未来を拓く理由
ブランディングとは、顧客への〝約束〟を一貫して伝え続けることです。価格やサービス内容だけでは他社と差別化しにくい市場でも、明確な〝約束〟を打ち出すことで、顧客の心に残るブランドイメージを構築できます。ブランディングと聞くと敷居高く感じてしまうかも知れませんが、小規模事業者や個人事業主こそしっかりとブランド設計を行っていく必要があります。ブランド設計で決めてくことは2つに大別すると「顧客との約束」と「約束を実現するための具体策」となり、それぞれ「コンセプト」「マーケティング施策」と言い換えることができます。
“コンセプト”とは何か?──言葉に宿る約束
「顧客との約束」=コンセプトとは、提供価値と顧客の深層ニーズを掛け合わせ、「利用したい」と思ってもらえる自社にとって優位なイメージをエンドユーザーの頭の中に構築するものです。我々が何かを購入するとき必ず意識の中で「利用したい」と考えます。そして「利用したい」はそのブランド(商品・サービス)に対して抱くポジティブなイメージから生まれます。イメージはそれぞれの人の中の頭にあるものであり様々な情報を通して構築されていき、このポジティブなイメージを自社に優位になるように操作していく作業が前述のブランディングであり、イメージそのものが「コンセプト」となります。
TRYOUT RECORDSから学ぶ、コンセプト作りの実践
ではここから、鈴木さんに受講いただいた「ワンストップ相談による特定創業支援等事業」でどのようにコンセプトを決めていったかをお伝えしていきます。
① 経営資源(リソース)の整理
今回は既に起業済みであったため活用できる経営資源(リソース)を整理することからはじめました。15年間イベント事業を継続しているため「音作り」などの技術面における部分が秀でていることが分かりました。そして特に注目した点は「アマチュアバンドを対象としたライブイベントではめずらしく『5カメに映像撮影および配信』を行っている」ことでした。この部分をどのように価値として表現できるかを一緒に考えていきました。
② 顧客シナリオの構築
顧客がライブ後に何をするかまで想定したシナリオを作成。下図はその一例です。

③ 顧客の深層ニーズの抽出
当事者意識を持ちながら、「なぜライブに出演したいのか」「その先に何を感じたいのか」を徹底的に掘り下げていきました。そこから「ステージで輝きたい」「仲間やファンから認められたい」という承認欲求が核心ではないかという結論に行きつきました。
④ 提供価値の明確化
ただ演奏する機会を提供するだけでなく、“舞台そのもの”をプロフェッショナルクオリティでデザインする価値を打ち出すことにしました。
⑤ コンセプトの言語化
深層ニーズを刺激し、より多くアマチュアバンドに刺さることを意識しながらここまでのディスカッションの内容の言語化に挑戦していきました。最終的に出来上がったコンセプトは「演者が一番輝けるライブイベント」でした。承認欲求などの過激なワードを用いず、なおかつ幅広いターゲット層に共感してもらえるものが出来ました。
コンセプトを刺激するマーケティング施策
コンセプトが決まったあとは、コンセプトをターゲット層の頭の中に構築/強化するマーケティング施策をブレスト方式で考えていきました。「音響/映像を既に行っているなら次は照明」「ライブハウスにも拘りを持ちたい」などコンセプトというゴールが決まればすんなりとアイデアは出てくると思います。尚、鈴木さんは10月に「代官山UNIT」(下写真)という有名なライブハウスで大型のイベントを行います。


(https://unit-tokyo.comより画像引用)
このライブイベントもシリーズ化していきイベント名称も「NEXT STAGE」(仮)といったコンセプトをしっかり意識したものとなっております。
まとめ ― みなさんの“約束”を描こう
鈴木さんの事業は順調に推移しており、今年度(2025年度)売上は前年比200%着地を目指せそうとのことです。
本コラムでは、ブランディングの重要性と本質である「顧客への約束(コンセプト)」を言語化する手順をご紹介しました。みなさんの事業が顧客に何を約束し、どのように実現するのか。今一度、WHO×WHATを掛け合わせ、言葉に落とし込んでみてください。顧客の心に残る強力なコンセプトこそ、未来を拓く最初の一歩になると思います。


平林丈晴 <アドバイザー>
創業支援やマーケティング支援が得意
飲食業での経験が豊富です。
自身も創業した経験を活かして、ネリサポでは創業塾での登壇も行っています。
どうやって粗利益を稼ぐかを一緒に考えていきましょう。