中小企業診断士が巡る、練馬の街〜konacona.〜

練馬区でパン教室と手作りジャム・マーマレードの製造販売を営むkonacona.の吉村明日香さんに、事業を育ててきた歩みを伺いました。

konacona.

吉村明日香

<サービス内容>
パン教室、パン・ジャム・マーマレードの製造販売

ご自宅の工房にて

10年越しでかなえたパン教室

会社員時代に通った料理教室で、洗練された食卓の世界に憧れた吉村さん。「私もこういう仕事がしたい」と調理師学校に通い、念願だった先生のアシスタントになる話もまとまりかけましたが、出産や夫の転勤が重なり、夢はいったんお預けになります。それでも子育てのかたわら、10年以上パン作りを学び続けました。

その後、東京で参加したパン教室では、受講生の多くがすでに自身の教室を開いていました。その姿に刺激を受け、周囲にも背中を押されて、パン教室の開業を決意します。

夫は当初、家のことがおろそかになるのではと反対していましたが、「家族に負担はかけない」と約束。アルバイト代でオーブンを購入するなど自力で準備を整え、自宅教室を開きました。

「100%できるようになってからと思っていましたが、やってみると新しい発見がある。失敗も生徒さんに伝えられる経験になります。やりたいと思ったら、早く始めた方がいいと思います。」

教室の軸はパンですが、パンに合う料理を用意し、レシピもセットでお渡ししています。料理やレシピの提供を省けば、準備はぐっと楽になります。それでも、ここは削らないと決めています。

「自分が生徒の立場で参加したとき、『行って良かった』と思える内容にしたいんです」

お客様が求めているもの、喜んでもらえるものを考え抜いて提供している姿勢が、教室が長く支持される理由の一つなのかもしれません。

パン教室で提供されるお料理

ファンを育てた発信

集客を支えたのは、開業前から続けていた個人のInstagramです。焼いたパンやパン屋巡りなど、食にまつわる投稿を続けていく中で、パンが好きな方や食に興味のある方がフォローしてくれるようになりました。開業前から続けていたこのInstagramがベースになり、集客に大きく困ることはなかったといいます。

今どんなところがお客様に喜ばれていると感じるのか。そう尋ねると、吉村さんは少し考えてから、こう答えてくれました。

「一生懸命作っている姿を、たぶん見てくださっているんだと思います」

吉村さんのInstagramには、どこの農家さんの果物を使ったか、どんな組み合わせを試したかといった、ものづくりの過程が綴られています。作り手の姿勢や人柄まで伝わる発信が、共感を呼び、ファンを育てているのでしょう。

コロナ禍を転機に変えた「製造許可」

教室の次に抱いた夢は、パンの販売でした。しかし、菓子製造業許可の取得に必要な自宅の改修はハードルが高く、一度は諦めかけます。そんな中、親族が所有する空き家を使わせてもらえることになり、2020年4月に製造許可を取得しました。

時期を同じくしてコロナ禍が始まり、教室を開けなくなってしまったこともあり、生徒さんたちにパンを箱に詰めて届ける「パン箱」の販売を始めました。その後、地元のお店の企画展で、パンを販売する機会にも恵まれ、これが大好評。その行列を見た夫も、それまでの反対から一転して応援してくれるようになりました。これをきっかけに、区内のイベントなどへ販売の場が広がっていきます。

「続けていいのか」を確かめたコンテストへの挑戦

パンと並んで作り始めたのが、ジャムとマーマレードです。ただ、良質な果物を仕入れるため原価は高く、売れ行きもパンほどではありませんでした。好きなだけで続けてよいのか。迷った吉村さんは、自分の技術を客観的に確かめようと、英国発祥の国際コンテストの日本大会「ダルメインWorldマーマレードアワード&フェスティバル in Japan」に応募します。

使ったのは、練馬の農家さんが育てた文旦です。イベントやマルシェに出店していたからこそ、地元の農家さんを紹介してもらえる環境にいました。2023年、このマーマレードが銅賞を受賞し、「続けていいんだ」と自信と確信を得ます。本腰を入れた2024年大会では2部門での最高金賞を受賞しました。2025年も最高金賞に輝き、英国本大会の職人部門でも金賞を受賞しています。

当初、ジャムやマーマレードは主にパン教室の生徒さん向けに販売していましたが、その後、通っていたパン教室の先生からのご紹介で、都心の人気ベーカリーや生ハム専門店への卸売りが実現しました。今では、新作が出るたびに買いに来るファンもいます。

一歩ずつの行動が、次の縁を連れてくる

事業が広がり始めた頃、それまでの製造拠点が使用できなくなることになり、製造を続ける場所を失いかけたときのことです。事業者仲間の先輩が補助金(ネリサポの新規ビジネスチャレンジ補助金)のことを教えてくれ、専門家も紹介してくれました。かつては「無理だ」と諦めた自宅の改修にも踏み出し、自宅に工房を構えました。

振り返ると、吉村さんの歩みは縁の連鎖でできています。製造許可を取ったからイベントに出店でき、出店したから地元の農家さんとつながりました。その練馬の文旦を使ったマーマレードでコンテスト受賞し、受賞と教室での縁が卸売りに結びつきました。事業を続けるなかで出会った仲間が、拠点を失う危機も救ってくれました。長年続けてきたInstagramでは、食の世界を目指すきっかけになった先生に見つけてもらい、再び交流が始まったそうです。

「不思議なご縁に助けられてばかり」と吉村さんは笑います。しかしその縁は、小さくても行動を積み重ねてきたからこそ巡ってきたものです。

これからの展望 ―― 学び続け、より多くの人へ

最近は百貨店の催事にも出展するようになりました。「大変だけれど、本当に楽しい」と、新しい舞台での挑戦を心待ちにしています。オンラインショップでのジャム販売や、自宅で学べる映像レッスンなど、教室に通えない人に届ける取り組みも始まっています。

「もっと多くの方に食べていただきたい」と話す吉村さん。原点であるパンへの思いも変わりません。「パンについてもっと研究したいし、学び続けたい」と、次の挑戦を「やりたいことリスト」に温めています。

中小企業診断士の視点:konacona.から学ぶ、事業を育てる3つのヒント

【100%を待たずに、まず一歩を踏み出す】
100%の準備が整うのを待つのではなく、まず一歩を踏み出し、行動しながら改善していく。その積み重ねが新たなご縁を生み、さらに次の機会へと広がっていきます。

【顧客目線で「削らない部分」を決める】
パン教室では、手間のかかる料理とレシピをあえて続けていることが、差別化とリピートを生んでいます。何を効率化し、何を守るかを顧客の目線で決めることが大切です。

【取り組みを発信し、共感でファンをつくる】
商品そのものだけでなく、作り手の姿勢や素材選び、試行錯誤の過程を発信することで、「この人を応援したい」という共感が生まれ、根強いファンになっています。小規模事業者にとって、価格や量ではなく共感で選ばれることは大きな強みです。

熊谷 友貴 <アドバイザー>

起業や経営に関する悩み事や熱い想い、
なんでもお気軽にお聞かせください。

一緒に考え、前に進めていきましょう!

想いを形にする支援を心がけています。