補助金活用による新規ビジネスチャレンジの軌跡:病院内理容室から医療用ウィッグ事業への革新

中小事業者が新たなビジネスに挑戦する際、補助金を適切に活用すれば、資金面での課題を乗り越える力強い味方となります。本記事では、兵庫県にある病院内理容室が補助金を戦略的に活用して医療用ウィッグ事業へと進出、大きな成功を収めた事例を紹介します。

この事例から、小規模事業者の皆様が新規ビジネスにチャレンジする際のヒントを見出していただければ幸いです。

事例企業の概要

株式会社アピアランスサロン

  • 代表取締役:小谷 和也
  • 業種:理容業

兵庫県立西宮病院内で、医療用ウイッグとアピアランス(外見)ケア、がんにまつわるよろず相談ができる「完全個室型アピアランスサロン」を運営


当社のビジネス環境(2017年頃)

当社は、兵庫県の県立西宮病院内に店舗を構える理容室です。

同病院内にがん支援センターが設置されていたことから、抗がん剤治療の影響で脱毛に悩む患者さんからの相談が増加傾向にあり、2017年頃から同店内にて医療用ウィッグの相談・販売サポートを開始しました。

当病院内で20年以上営業してきた信用、福祉理容の経験に加え、治療のついでに相談できる便利さ、バリアフリーや個室対応など、安心して相談できる環境という強みがありました。また、医療用ウィッグに関する専門知識や、多数の患者さんの悩み相談に対応してきた経験も積み重ねてきました。
さらに、セミオーダータイプの医療用ウィッグを安定供給できるメーカーとの協業関係や、オンライン発注システムの活用による効率的な商流、購入後の調整カット・お手入れなどの総合的なサポート体制も整っていました。

当初、この医療用ウィッグの取り扱いは、当社売上の約10%を占める程度でしたが、単なる理容サービスを超えた当社の新たなビジネスチャンスとしての可能性を感じていました。医療用ウィッグ事業を本格的に強化することで、患者さんへのサポートを拡大し、同時に事業の成長を図る絶好の機会だと判断しました。

店舗/Webでの取り組み強化と補助金活用(2018年〜)

医療用ウィッグ事業の強化を検討する中で、「小規模事業者持続化補助金」の存在を知りました。
(※現在募集中の小規模事業者持続化補助金事務局HP https://s23.jizokukahojokin.info/
この補助金は、小規模事業者の販路開拓等の取り組みを支援するもので、当社医療用ウィッグ事業の拡大計画にぴったりフィットする制度でした。

補助金で支援を受けた内容

補助金は主に2つの方向で活用しました。

1つ目は、試着用サンプルウィッグの購入です。実際に店内で試着できるように、多様なスタイル、質感のウィッグを取り揃えたことで患者さんの不安を軽減し、購入を促進することを目指しました。
2つ目は、Webサイトの構築とコンテンツ強化です。当時はアメブロでブログ記事を投稿し、月間150PV程度の閲覧数でした。医療用ウィッグの専門的なWebサイトを構築し、医療用ウィッグに関する情報や脱毛中の方向けのケア情報など、価値あるコンテンツを増やすことで、より多くの潜在顧客へリーチすることを目指しました。
これらの施策により、オフラインとオンラインの両面から事業拡大を図る戦略を立てました。

また、当社においては、補助金申請や事業計画策定だけでなく、苦手とするWeb活用においても、定期的に外部専門家の知見・サポートを得ながら進めました。継続的なコンサルティングにより、より効果的な戦略立案が可能になり、事業の各段階に応じた適切な状況判断をすることができました。

補助金活用による成果

補助金を活用した結果、驚くべき成果が得られました。

Web戦略では、PV数がアメブロと比較して20倍近くまで拡大、月間3000PV〜4000PVに到達しました。問い合わせ件数も1日に複数件来るようになり、潜在顧客との接点が大幅に増加しました。
医療用ウィッグ事業の売上は、事業実施2年後の2020年には補助金活用前と比較して17倍、理容室の売上を大きく超える主力事業にまで成長を遂げたのです。

これらの成果は、当初の目標を大きく上回るものでした。
特に、Webサイト構築と試着用サンプルウィッグ導入の相乗効果が顕著で、兵庫県のみならず、隣接する岡山県、大阪府、四国エリアからの来店者も多く見受けられました。コロナ禍においても、オンラインでの情報提供と実店舗での試着・相談を組み合わせたハイブリッドな販売戦略が功を奏したと言えます。

ビジネスモデルの横展開と補助金活用(2020年〜)

2018年から本格化した事業は、その後、新たな拡大路線を目指すことになりました。
当社と同じような全国の病院内理容室にもビジネスモデルとノウハウを展開し業界全体の発展に貢献したいと、事業拡大に踏み切りました。
まず、医療用ウィッグ事業の包括的な運営マニュアルを作成、コンサルティングサービスを提供し、ノウハウの共有を進めたことで、他の理容室でも同様のサービスを展開しやすくなりました。
その際にも、前回同様の「小規模事業者持続化補助金」を活用し、全国に点在する病院内理容室のリストアップと、DM送付を実施しました。

また、2021年に全国病院内ヘアサロン協会“セカンドサポート”を設立しました。2024年現在、全国9店の理容室が加盟しています。
各地域の特性に合わせたサービス提供を実現し、医療用ウィッグサービスの普及と認知度向上、より多くの患者さんへのサポート体制の確立、医療機関や関連企業とのネットワークを拡大しています。

事例から学ぶ補助金活用のポイント

この事例から、補助金活用によって新規ビジネスを軌道に乗せるために必要ないくつかの重要な要素をまとめてみます。

強みを活かした事業展開

当社では福祉理容での実績や専門知識、病院内理容室の立地、パートナーとの協業関係という強みを活かし、医療用ウィッグ事業を展開しました。そして、当社が不足していた「顧客ニーズに直結する投資」(患者の不安軽減のためのサンプルウィッグ購入や情報提供のためのWebサイト構築)に、補助金を効果的に活用することができました。
新規事業とはいえ、自社の強みを明確に認識し、確実に事業に活かせる方向性を見極めたことが成功要因となったことは間違いありません。

明確な目標設定と戦略立案、専門家によるサポート

当社では、試着用サンプルウィッグの購入とWebサイト構築という具体的な施策と目標を立て、オフライン・オンライン両面からアプローチする戦略を立案しました。このように補助金申請時には、具体的な目標と実行計画を示すことが重要です。

また、継続的に専門家に相談しながら、PV数の増加や問い合わせ・売上の伸びなど、具体的な数字で定量的に状況を把握、意思決定のサポートが受けられていたことも、成功要因の1つとして挙げられます。

長期的視点での活用

当社の新規事業は、初期の補助金活用により事業基盤を構築し、それが長期的かつ持続可能な事業成長、さらなる展開につながった成功例となりました。補助金は一時的な金融支援だけにとどまらず、持続的な成長のきっかけとして捉えることが重要です。

区内事業者の新規チャレンジを応援!!

練馬区 新規ビジネスチャレンジ補助金(令和6年度夏募集)

区内事業者が新市場への参入や新商品・新サービスの開発等に取り組む事業者に対して、必要な費用の一部を補助するとともに、ネリサポの相談員(中小企業診断士等)が、事業計画の策定・実行を伴走支援する新制度が令和6年8月からスタートします。

練馬区 新規ビジネスチャレンジ補助金

https://nerima-idc.or.jp/bsc/yuushi/hojokin.html#challenge

この補助金は、新規事業の立ち上げや既存事業の新分野展開を支援するもので、対象経費の2/3以内、最大100万円まで補助されます。令和6年8月28日から募集開始予定となっています。

新しい事業へのチャレンジの多くは、100%成功するというものではありません。むしろ、成功の可能性は低くなることが一般的です。
補助金は新たな事業へのチャレンジを後押しする強力な制度であり、企業は新たなチャレンジに補助金をうまく活用することで、補助金を活用しつつ、持続可能で社会に価値を提供し続ける事業を構築することが、真の成功につながるのです。

補助金制度を活かし、新たな挑戦への第一歩を踏み出してください。

眞本崇之 <チーフアドバイザー>

補助金獲得と実行支援をサポートします

200以上補助金採択実績を活かした補助金申請ノウハウの提供、ビジネスモデルや戦略、具体的なアクションプラン、事業計画の策定だけでなく、実行支援まで中長期の成長をサポートします。