VRIOフレームワークから学ぶ「あえて売らない」戦略
お気に入りのブランドの限定コラボ商品が、発売初日に売り切れていた。「もうないのか」と思った瞬間、発売前は購入する気持ちが薄かったのに、ものすごく惜しくなった。こんな経験はありませんか?
「手に入りにくい」という状況により、顧客の「欲しい」という気持ちが増幅され、商品の価値は高まることがあります。この仕掛けを実際のビジネスに適用することで、売上や利益を最大化できるでしょう。本コラムでは、VRIOと呼ばれるフレームワークでこの仕掛けを説明してみます。
1. VRIOとは何か
VRIOとは、アメリカの経営学者 ジェイ・B・バーニー(Jay B. Barney)が提唱した自社の強みを見極めるためのフレームワークです。 会社が持つあらゆる経営資源(技術力、人材、ブランド、顧客との関係性、独自のノウハウなど)に当てはめ、「この会社は、なぜ競合に負けないのか(持続的な競争優位)」を分析することがVRIOの本来の目的です。
VRIOフレームワークを、自社で展開する商品やサービスにも応用することで、商品力やサービス力を高めることができると考えられます。VRIOには、以下の4つの観点があります。
- V (Value・経済価値):その企業が持つ経営資源が、市場の機会を活かしたり脅威を切り抜けたりする「武器」になっているか。
- R (Rarity・希少性):他社が簡単に真似して大量生産できるような技術やブランドではなく、自社固有の資源によって、他には代えがたい存在になっているか。
- I (Imitability・模倣困難性):ブランドの世界観、長年かけて築いたファンとの関係性、独自のデザインや製法などによって、競合が同じような商品・サービスを発売したとしても、簡単に真似されないか。
- O (Organization・組織):「あえて売らない」という目先の利益に惑わされない戦略を、会社全体(方針や評価制度)で一貫してコントロールし、実行できる体制があるか。
上記の4つが揃えば揃うほど、「売り込まなくても売れる状態」に近づいていきます。逆に1つでも欠けると、せっかくの強みを活かし切れません。
2. 「誰に売るか」を間違えると、強みが消える
VRIOフレームワークで自社商品・サービスの強みを把握できたとしても、「誰に売るか」を間違えると、その強みは伝わりにくくなります。
【失敗例】ハンドメイドアクセサリーを販売しようと、とにかくすべての人に向けてSNSで発信し続けた。投稿は毎日続けたのに、フォロワーはなかなか増えず、売上もほとんど出なかった。
【成功例】同じハンドメイドアクセサリーを「自分へのご褒美としてアクセサリーを探している30代の働く女性」というターゲットに絞って発信したところ、共感した人たちの口コミで自然に広がった。
この2つの違いは商品ではありません。違いは「誰のどんな場面に刺さるか」というターゲットの絞り込みです。ターゲットが変わると、伝える言葉、発信場所、投稿のタイミングなども変わってきます。「すべての人に届けたい」という気持ちはよくわかりますが、すべての人に向けたメッセージは、結果的には誰の心にも刺さらない可能性が高いのです。
3. 「何を売るか」によっても、売り方はまったく違う
ターゲットだけでなく、商品の種類によっても売り方は大きく異なります。ここを間違えると、せっかくの価値を自ら壊してしまうことになります。例えば、職人が1点1点手掛ける革製品を、集客のためにクーポンサイトに掲載し大幅割引で販売したとします。一時的に注文は増えますが、「安く買える商品」というイメージがついてしまい、定価では売れなくなる可能性が高いです。
4. 「あえて売らない」という逆転の発想
冒頭の限定コラボ商品の話に戻りましょう。
他社にない強み(R:希少性)があり、簡単には真似できない(I:模倣困難性)商品ほど、全力で売り込まないほうが価値は上がります。この場合、「買ってください」と懇願するより、「なかなか手に入らない」という状況をつくることで、顧客の方から近づいてきます。
具体的な方法としては、次のようなものがあります。
- 数量限定販売 (在庫をあえて絞る)
- 予約制・完全受注生産 (売れてから作る)
- 紹介制・会員制 (誰でも買えない仕組みをつくる)
- ウェイティングリスト (待つ体験が期待感を高める)
特に起業初期は「もっと多くの人に知って欲しい」という焦りから、何でも売ろうとしがちです。しかし、その焦りが希少価値を損なう可能性があります。「売り込まない勇気」こそが、差別化の武器になるかもしれません。
5. まとめ
新商品・新サービスの企画においては、VRIOフレームワークで商品・サービスの魅力を再確認しましょう。
- V (価値) :その限定品を作ることのできる独自の職人技やブランド力があるか。
- R (希少性) :その技術やブランドは、他社には存在しないものか。
- I (模倣困難性) :競合が真似しようとしても、真似できないか。
- O (組織):「あえて売らない」という販売戦略を、一貫して実行できる組織体制があるか。
一般的には、売上拡大のためには販路拡大し、販売のチャンスを増やすことを考えます。それも重要なことですが、顧客(ターゲット)にとっての価値が高いものであれば、手に入りにくいからこそ買いたいという気持ちが募ることがあります。VRIOフレームワークを活用して、最適なマーケティング戦略を策定し、売上や利益の最大化を実現してください。
《 岡本 麻代 / 中小企業診断士 》

