キャッシュレス時代にあえて現金商売という戦略
近年、QRコード決済やクレジットカード決済などのキャッシュレス決済が急速に普及しました。
確かに、キャッシュレス決済には顧客の利便性向上やレジ業務の効率化など、多くのメリットがあります。しかし、業種や経営状況によっては、そのデメリットが経営を圧迫しているケースも見られます。
デメリット1.決済手数料による利益圧迫
キャッシュレス決済の最大のデメリットは、決済手数料の負担です。
一般的に、クレジットカード決済では売上金額の2~5%程度、QRコード決済では1~3%程度の手数料が発生します。契約条件や事業規模によってはこれより低い料率が適用される場合もありますが、決済手数料が事業者にとっては利益を押し下げる要因の一つとなっています。
例えば、売上5,000万円、利益率10%の店舗を考えてみましょう。この場合、本来の利益は500万円です。しかし、決済手数料3%のキャッシュレス決済による売上であった場合、150万円の手数料負担が発生し、手元に残る利益は350万円にまで減少します。
決済手数料3%を支払ったうえで従来どおり500万円の利益を確保しようとすると、約7,143万円の売上が必要になります。
売上を増やすことは簡単ではありません。一方で、決済手数料は売上が発生するたびに継続的に発生します。利益率の低い業種ほど、その影響は大きくなります。
デメリット2.キャッシュフローの悪化
次に注目したいのがキャッシュフローです。
現金商売では、商品やサービスを提供したその場で代金を受け取ることができます。売上と入金が同時に発生するため、資金繰りはシンプルです。
一方で、キャッシュレス決済の場合、売上が発生しても実際に入金されるまでに一定の期間を要します。決済事業者によって異なりますが、入金まで数日から数週間かかるケースもあります。
売上が計上されていても、現金はまだ手元に入っていない状況で、仕入代金や人件費、家賃などの支払いは発生します。
黒字であっても手元資金が不足すれば倒産するリスクがあります。売上と同時に現金が手元へ入る現金商売の強みを、改めて評価する必要があるでしょう。
デメリット3.チャージバックによる損失リスク
チャージバックとは、決済利用者が「利用した覚えがない」「商品が届かない」「商品やサービスに問題があった」などの理由で異議を申し立てた場合に、カード会社等が加盟店への売上を取り消し、利用者へ返金を行う制度です。
本来は消費者保護のための仕組みですが、事業者にとってはリスク要因となります。
例えば、商品を発送したにもかかわらず不正利用が発覚した場合などには、事業者側が代金を回収できなくなる可能性があります。また、売上の取消しだけでなく、対応のための時間や事務負担が発生することもあります。特にECサイトや通信販売を行っている事業者では、チャージバック対応に多くの時間と労力がかかる場合があります。
現金取引であれば、その場で取引が完結するため、クレジットカード取引のようなチャージバックによって後から売上が取り消されるリスクがなく、現金取引の方が確実性は高いといえるでしょう。
現金商売という経営戦略
地域密着型の商店や常連客中心の飲食店などでは顧客の来店理由が決済方法ではなく、商品やサービス、店主との信頼関係にあるケースが少なくありません。そのため、キャッシュレス対応による売上増加効果が限定的である一方、決済手数料によるコストは確実に発生します。
こうした業態では、現金決済によって利益率や資金繰りを改善し、その分を品質向上や価格維持に充てることが、競争力の向上につながる場合があります。
また、利益率の低い業種では、決済手数料の負担の影響は相対的により大きなものとなります。そのため、現金決済を維持すること自体が利益を確保するための重要なポイントとなる場合があります。
もちろん、キャッシュレス決済によって販売機会の拡大や顧客満足度の向上が期待できる業種もあります。そのため、キャッシュレス化が必ずしも悪いというわけではありません。重要なのは、自社の顧客層や利益率、資金繰りの状況を踏まえ、本当に自社にとって最適な決済方法を選択することです。
キャッシュレス決済の利便性が競争力につながることもありますが、売上の数%を継続的に外部へ支払うことが自社の経営として合理的なのか、一度立ち止まって検討してみる価値はあるのではないでしょうか。
《 高島 慎一郎 /中小企業診断士 》

