自社株だけは承継先を決める!部分遺言とは?

主に同族経営を行う中小企業の経営者にとって、会社を安定的に経営していくためには「自社株」の保有が欠かせません。株主は株式の保有割合に応じて「できること」が決まっています。一般的には「3分の2超」保有していると、大抵のことは意思決定できるとされています。逆に、僅かな株式しか保有していない株主にも一定の権利が認められています。例えば、3%の株式しか保有していない株主でも「会計帳簿の閲覧を請求する」権利があります。以上のことを踏まえると、安定的に会社を経営していくためには、経営者(代表取締役)の自社株保有割合を高く維持するとともに、経営に関与しない人物に自社株が渡らないようにすることが大切だと考えられます。これは、自社株の「評価額が高いか、低いかに関わらず」言えることです。

話は変わって「遺言」についてです。遺言は生前に財産の承継先を決める手段の1つです。一般的に遺言では、預貯金・有価証券・不動産等の「全財産」を対象にすることが多いです。一方で「特定の財産」のみを遺言の対象とすることもできます。このような遺言は「部分遺言」と呼ばれています。そして遺留分(※)等の考慮は必要ですが、中小企業の経営者においては、以下のようなケースで「部分遺言」を活用できる可能性があると考えられます。

<ケース①>

後継者は決定済で同人に自社株を承継させたい。一方、預貯金や自宅を誰に承継させるかは現時点では決められない

<ケース②>

親族でない共同経営者と自社株を保有(50%ずつ等)している

①は50~60代の経営者の場合に該当するケースが多いと想定されます。②は、当てはまる場合は年齢に関わらず活用を検討すると良いと考えます。特段対策をしていない場合、万が一のことがあると「経営に関与しない相手方の親族」に自社株が渡ってしまいます。これを避けるためにお互いに「部分遺言」で自社株の承継先をもう一方の経営者に指定しておくという方法です。

以上のように、後継者或いは共同経営者が安定的に会社を経営できるよう「自社株だけ」は部分遺言(或いは、同様の効果がある仕組み)によって、承継先を決めておくという方法も承継対策の選択肢の1つです。

※遺留分:法定相続人(兄弟姉妹除く)が引き継げる最低限の取り分

《 森川 泰裕 / 中小企業診断士 》